緒方知行の「OGATA'S EYE」第7回(07/11/30)
流通業のPBづくりを動かす3つの方向
ナショナルブランドのレッテル張替え安売り版の時代は終わった
1996年8月17日、各全国紙にユニークな前面広告が「PB大魔王」となのるある流通企業トップの主張広告の形で掲載された。このPB大魔王と名乗るその人は、誰あろうあのダイエーの中内功総帥(当時)その人であった。
その内容について、一部省略の形で原文のまま以下で紹介しよう。
「餅は餅屋だけにまかせておくと、ろくな餅にはならない」―――ひとことで言うと、これが商品づくりの基本にある私の信念です。たしかにメーカーは商品づくりの専門家ですが、メーカーにまかせっきりにしておくと頻繁なモデルチェンジ、過剰な品質や性能の追求など、「つくる側の論理」がとかく優先されてしまう危険があります。そうした危険を消費者の立場からチェックするためには、「餅屋」ではない素人の発想が必要になる。
主婦のみなさんの不平や不満を基点に、「買いたい価格」や「求められている品質や性能」をはっきりさせ、それを反映させた商品づくりが必要になります。つまり、「なんでもかんでも高品質・高性能であるべきだ」と考えるのではなく、「使う側の求める価値に応じて商品を考える」というところに、PB商品開発の真の意義がある、と私は考えているのです。
私たちは景気の動きや一時的な流行に左右されてPB商品を開発してきたのではありません。PB商品の歴史は、そのままダイエーの歴史でもあるのです。これからも私は、主婦のみなさんに「価値」をちゃんと認めていただけるようなPB商品をつくりつづけていこうと思います。そしてこれからも私は、この信念をテープレコーダーのように言いつづけていくつもりです。
もちろん、NB商品はいらないなどと、不遜なことを言っているのではありません。主婦のみなさんが、日々の生活の場面に応じて、NB商品とPB商品をうまく使い分け、より合理的な生活を実現する。そんな「選択のできる社会」をつくっていくことが大切だといいたいのです。それが、本当の意味で「豊かな社会」「民主的な社会」ではないか、と言いたいのです。私もやります。PB商品をもっともっと育てていくことに、どうかみなさんもお力をかしてください。お願いします。
ここには中内功氏の想いが切々とつづられているが、彼は決してNBとPBを対立したもとしてはここではとらえていない。
彼が著した『我が安売り哲学』での“流通革命”の思想においては、巨大な市場支配力、流通支配力を持つ寡占メーカーの、いわゆるナショナルブランド商品に拮抗しうる力をもつ存在として、流通業の手によるPBづくりがとらえられているが、すでにこの新聞広告が掲載された1996年時点においては、いささか時代状況が変わっていることを中内氏も読み取っていたようである。
かつて強力な流通支配力を誇ったナショナルの松下電器と戦う心意気で、クラウンという、言ってみれば弱小の家電メーカーに「ブブ」というブランド名でテレビを作らせ、大失敗に終わった経験までもつ中内氏は、メーカーの持つ力を認めざるを得ないこともこの時期には認識していたようである。だが、そうかといって、「モチはモチ屋に任せる」という考え方は、断固として否定している。
あくまでも、流通業によるPBづくりは、つくり手の論理、つくり手の発想ではなく、使う側に立っての使い勝手や利便性を含めた価値でなければならないというところに、ナショナルブランドとは一線を画したPBの存在性を求めようとするものである。この思想は「いよいよ本格的なPBの時代」を開き、担う流通業の今日のPBづくりにも明確に生かされているのである。
少なくとも、本誌『Value Creator』269号において取り上げている(あるいは以前から継続してスタディしている)セブン&アイ・ホールディングスのPB「セブンプレミアム」や、それが一つの商品開発における思想と技術の範としているセブン‐イレブンのこれまでの商品開発においても、イオングループの「トップバリュ」の商品展開においても、共通するところである。
流通業のPBづくりはいま、ナショナルブランドを意識した拮抗版(安売り版)をこえて、ナショナルブランドがいまだ取り組んでいない、いってみればナショナルブランドがない商品領域(生活財領域)で新しい価値開発をするというPBづくりが、まずひとつの大きな潮流となってきている。
そして二つ目は、地域商品開発という形でのPB展開である。この場合には二つある。
セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文CEOは、「市場が成熟してくると、地域差が大きくクローズアップされてくる」と語っているが、セブン‐イレブンのおでんのだしに象徴されるように、地域地域で求められる固有の味、あるいは原材料、素材、そして生産・加工の手法といった歴史や伝統や固有の文化や生活慣習、味覚、嗜好性等々の違いにきめ細かく対応した商品づくりとしてのPBの方向がまず一つである。これは、ナショナルブランドメーカーには容易には手をだしがたい領域である。
そしてもう一つは、各地域で埋もれている逸品(すぐれもの)を探してきて、活躍のステージを与え、それにスポットライトをあてるというPBづくりである。これは、自ら店頭をもつが故にできる流通業ならではの商品展開であり、この方向は、ますます今後拡大していくものと考えられる。
そして第三の潮流は、価格訴求型のPBづくりである。今日、原材料の国際的な不足と高騰のもとで、ナショナルブランドメーカーは次々と、自社製品の販売価格のアップを行ってきている。このナショナルブランドの値上げに対して、流通業の中には、「値上げストップ宣言」をするところが相次いで出てきている。
かつてダイエーや西友やジャスコが、オイルショックのもと次々とメーカー製品の値上げが行われていくなかで、物価高騰阻止宣言を行ったときのように社会的な流通企業の存在性のアピールをするには効果的であることは間違いない。
しかし、問題はその永続性である。ほとんどの流通企業や流通グループが「今年いっぱい」などといった形で期間限定をしており、パフォーマンス効果は別として、どのくらい社会的にみて実効のあるものかどうかとなると、疑問なところもある。
「原料コストは30%くらいのもので、トータルコストの中に占めるいわゆるメーカーのマーケティングコスト(広告宣伝費や営業コスト)は30~40%もある。これをのぞくことができれば、原料高のなかでも、十分に買い手にとってリーズナブルな価格の実現が可能となる」とはセブンプレミアムのプロジェクトチームリーダー大高善興ヨークベニマル社長の言であるが、流通業のPBづくりこそ、構造的かつ合理的に値上げ抑制を可能とするものなのである。
流通業のPBづくりは、以上の3つを軸に、単なる安売り競争の手段という従来的な方向を脱して、新しい生活提案をもって生活者の心を動かすことのできるような新しい価値創造に主眼をおいた、他の産業にはない流通業の特性をいかしたBPづくりへと大きく動き出している。そしてそれは、店頭効果をいかした価値訴求、価値伝達をもっての、新しい需要創造への挑戦でもある。
そしていま、従来的な生産者、メーカーとの対立・対抗発想をこえて、豊かな生活の提案と提供を可能にしうる買い手の心を動かす価値創造のためのパートナー、戦略的同盟者として、互いにその専門機能をみがきあげ、いかしあいながらの協働・協創の方向へとかわってきている。
中内氏が否定した意味とは異なった「もちはもちや同志の」戦略的同盟による価値創造への取組みが、チームマーチャンダイジングという名のもとに進行しつつあるのである。(本誌編集主幹 緒方記)

